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大阪高等裁判所 昭和29年(く)2号 決定 1954年1月19日

本籍 和歌山県○○郡○○村大字○○○○○番地

住居 大阪府○○○郡○○○村大字○○○○○番地

目下○○少年院在院中

無職

抗告人 三村一郎(仮名)昭和八年十二月三十一日生

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告理由の要旨は、原裁判所はその審判期日に保護者たる少年の父親の呼出を怠り、その不出頭のまま本件審判期日を開いたものであつて、その決定手続には決定に影響を及ぼす法令違反があるというのである。

よつて按ずるに、少年を審判するには、その期日を定め、少年はもちろんのこと、保護者及び附添人を呼び出さなければならないのであつて(少年審判規則第二十五条第二項)、しかもこの場合保護者及び附添人の呼出は、審判の必須要件であると解しなければならないことは、少年保護事件が、その調査審判の全過程を通じ、いわゆる面接主義を立前としており(同規則第三条)、これらの者も審判の席において意見陳述権を有し(同規則第三十条)、またその内のある者は抗告権をも有している(少年法第三十二条)事実、及び旧少年法(大正十一年法律第四十二号)第四十三条第三項には、「審判期日ニハ本人、保護者及附添人ヲ呼出スヘシ但シ実益ナシト認ムルトキハ保護者ハ之ヲ呼出ササルコトヲ得」と規定されていたのを、現行少年審判規則第二十五条第二項の如く、「審判期日には、少年、保護者及び附添人を呼び出さなければならない。」と改正されたものである事実等から見て明らかであるといわなければならない。ところで、本件についてこれを見ると、原裁判所が昭和二十八年十二月二十五日の審判期日に保護者たる少年の父を呼び出さず、従つて同人に審判に列席してその意見を陳述するの機会すら与えずに審判期日を開き、少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたことは、記録に徴し明らかなところであるから、右の如き原裁判所の審判手続には法令違反の違法があるものといわなければならないのであつて、たとえ、それが、その以前における調査官の調査により保護者の意見が予め明らかにされており、又同月三十日には少年が満二十歳に達するにも、かかわらず昭和二十八年度における原裁判所の審判が、事件処理の都合上同月二十五日をもつて打切らなければならない状況にあつたことに基因するものであつたとしても、原裁判所の右の如き処置をもつて到底適法のものとは認め難い。従つて、この違法は少年法第三十二条にいわゆる決定に影響を及ぼす法令違反に当ることもちろんであるから、本件抗告はその理由があるものとし、少年法第三十三条第二項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

別紙一

意見書

少年 三村一部

昭和八年十二月三十一日生

右少年に対する詐欺、覚醒剤取締法違反保護事件について、当裁判所が昭和二十八年十二月二十五日言渡した保護処分の決定に対し右少年から抗告の申立があつたので、少年審判規則第四十五条第二項により左記のとおり意見を述べる。

昭和二十九年一月五日

大阪家庭裁判所

裁判官

大阪高等裁判所御中

本件抗告の要旨は、すべて審判期日には少年、保護者及び附添人を呼び出さなければならない(少年審判規則第二十五条)のにかゝわらず、当裁判所は右規則に違背し保護者の呼出を怠りその不出頭のまま本件審判期日を開いたものであつて、その法令違反は決定に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

然しながら、本件審判期日における保護者の呼出を為し得なかつたのは次の如き緊急已むを得ない事情によるものである。すなわち、少年は昭和二十六年五月十七日許欺保護事件について保護観察処分に付され同観察中のものであるところ、当裁判所は昭和二十八年九月二十八日新に許欺保護事件を受理し、その調査のため三回に亘り(同年十月二十七日、十一月二十六日、十二月一日)少年並びに保護者を呼出したのであるが、両名とも右指定期日に出頭せず、十二月十一日に至り保護者のみ出頭し少年は当時家出し所在不明である旨陳述した。(少年調査官佐竹義忠作成の昭和二十八年十二月十一日附調査報告書)そこで同月十六日当裁判所は少年に対する同行状を発布し所轄南河内地区警察署に少年の所在捜査の上右同行状の執行方を依頼したのであるが、同署司法巡査は同月十八日少年が自宅に立寄つたことを探知し右同行状を執行せんとしたところ偶々少年は覚醒剤を所持していたため少年を現行犯逮捕し、ついで勾留の上更に覚醒剤取締法違反保護事件として当裁判所に同月二十四日送致したものである。

前記調査官の調査報告書中保護者三村竹松の陳述要旨の如く少年は正業に就かず家出し覚醒剤を常用するなど益々非行の度を加えるのみで保護者はこれが監督の方法に窮し、むしこの際少年を保護施設に収容の上強力なる矯正を希望する旨の意見を有していたもので保護者にして審判期日に出頭するも右同様の意見を述べるであろうことは予想しうるところである。一般に保護者に対する審判のための呼出手続をなさずその不出頭のまゝ審判をなすが如きは手続違背たるを免れないが、緊急のため前記呼出が事実上不能又は著しく困難の状況にある場合、保護者不出頭のまま審判することは已むを得ない措置であると謂わなければならない。

ところで少年は昭和二十八年十二月三十日を以て成人に達するのであるが昭和二十八年度における当裁判所の審判は事件処理の都合上同月二十五日を以て打切らなければならない状況にあり右審判期日を開くことは著しく困難であり、これが呼出手続を履むときは事実上審判の機会を永久に失うこととなり、かくては保護者の希望に副いえないばかりでなく少年法による適切妥当な保護処分をもなし得ず拱手傍観の憾なしとしない。そこで已むを得ず保護者不出頭のまま前記保護事件を併合審判し保護者の前記意見をも併せ考え少年を中等少年院に送致する旨の決定を言渡したものである。

以上の理由により右措置は決定に影響を及ぼす法令の違反に該当しないものと思料する。

別紙二

昭和二十八年少第一四五八六、二三五一二号

決定

本籍 和歌山県○○郡○○村字○○○○○番地

住居 大阪府○○○郡○○○村大字○○○○○番地

職業 無職

三村一郎

昭和八年十二月三十一日生

右少年に対する詐欺、覺醒剤取締法違反保護事件について審理を遂げ左の通り決定する。

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収の覺醒剤原薬十三包(昭和二十八年家領一二九三号の一)注射器一本(同号の二)を沒取する。

理由

少年は

第一、昭和二十八年八月七日午後零時頃大阪府○○○郡○○町大字○○△△鉄工所自転車置場において、上田某(当二十二年)に対し、返還の意思がないのに拘らず、その意思があるかのように装い、「一寸自転車を貸してくれ、すぐ返すから」と虚構の事実を申向け、その旨同人を誤信させた上、即時同所において、同人から同人所有の自転車一台の交付を受けてこれを騙取し、

第二、同年十二月十八日午前十時十五分頃大阪府○○○郡○○○村大字○○○○○番地自宅において覺醒剤原薬約十三包を所持していたものである。

右事実のうち第一の点は刑法第二百四十六条第一項に、第二の点は覺醒剤取締法第十四条、第四十一条第一項第二号にそれぞれ該当するところ少年の覺醒剤注射は昭和二十三年に始まり、以来今日に至るまで一時中絶したことがあるとはいえ、漸次その度を増し、生業に就かず諸所を浮浪し家財を持出すなど保護者の監督に服せず、この際収容保護による悪癖の矯正に期待するほかなく、保護者も同様これを望んでいるので中等少院に送致することとし主文のとおり決定する。

昭和二十八年十二月二十五日

大阪家庭裁判所

裁判官

別紙三

昭和二十九年少第二〇〇六号

執行指揮 事件送致決定

本籍 和歌山県○○郡○○村大字○○○○○

住居 大阪府○○○郡○○○村大字○○○○○

職業 無職

氏名 三村一郎

昭和八年十二月三十一日生

右の者に対する詐欺並に覺醒剤取締法違反保護事件について、年令超過の事実が判明したので少年法第二三条第三項に基き左の通り決定する。

主文

事件を大阪地方検察庁検察官に送致する。

昭和二十九年二月六日

大阪家庭裁判所

裁判官

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